(全5回シリーズ「看護部から病院を変える」)
いま、日本の病院経営は大きな転換点を迎えています。
2024年度診療報酬改定により、急性期の基準が厳格化され、これまで「7対1」で運営してきた病院の多くが、「10対1」への機能転換を迫られています。この流れは一見すると「体制の見直し」に見えますが、実際にはその後に続く“運営の再設計”こそが本質です。
ところが多くの病院では、人員を確保しても、業務の流れやオペレーションは以前と変わらず、結果として人件費構造が硬直したままになっています。
つまり、制度上は10対1でも、実態は7対1の働き方のまま採用を抑えられず、コストは下がらない。
こうして、見えない赤字構造が積み上がっていくのです。
■ もうひとつの構造的リスク:看護部の繁忙と稼働制限
同時に、もうひとつの深刻な課題があります。
それが「看護部の繁忙による稼働病床の低下」です。
基準上は50床あっても、実際には30床しか稼働していない。
「人員は足りているのに、現場が忙しくて受け入れられない」。
この状況は、まさに“人がいても動かない構造”の典型です。
この稼働制限は、単に現場の問題ではありません。
「稼働病床の減少=入院収益の減少」に直結し、加えて「採用抑制ができない」「人件費が固定化する」という経営的な負の連鎖を引き起こします。
■ “人が足りない”のではなく、“人が動かない構造”を変える
これらの課題の本質は、「人が足りない」ことではありません。
むしろ、人はいます。
問題は、「人が動ける仕組みになっていない」こと。
つまり、病院経営における最大の改善ポイントは、“人が動かない構造をどう動かすか”にあります。
ここを変えることができれば、
・稼働病床を増やして収益を伸ばす
・人件費構造を適正化してコストを抑える
・生まれた余力を未来への投資に回す
という、経営の好循環を作り出すことが可能です。
■ 改革の3ステップ:利益を生み、組織を動かし、未来へ投資する
私たちは、この構造を変えるために、次の3つのステップで支援しています。
STEP1:稼働病床を増やす(収益を増やす)
看護部の業務構造と入退院プロセスを再設計し、
「受け入れられない病棟」を「動く病棟」に変える。
例:基準50床のうち30床しか稼働していなかった病棟を、45床稼働へ改善するケースを想定。
1床あたり年間約2,000万円の入院収益とすると、
15床分の稼働回復で年間約3億円規模の増収効果が見込まれます。
STEP2:人件費を適正化する(コストを下げる)
機能転換後も業務構造が変わらず人員を減らせない病院に対し、
業務プロセスを可視化し、「必要な人員構造」を科学的に定義。
→ 自然退職+採用抑制で穏やかな最適化を可能にします。
STEP3:経営余力を創出し、将来へ再投資する
得られた利益を、DX・地域連携・人材育成などへ再投資。
→ 短期成果を中長期戦略に接続し、持続可能な経営基盤を築くことができます。
■ 未来に向けた第一歩
多くの病院では、「人を増やすことでしか解決できない」と思い込んでいます。
しかし、変えるべきは「人」ではなく「構造」。
現場の仕組みが動き出せば、同じ人員でも成果は劇的に変わります。
まずは“利益を生み出す構造”をつくり、そこから“未来に投資できる病院”へ。
それが、私たちが提案する「看護部から始める病院改革」です。
このコラムでは、今後5回にわたって、病院が直面する課題をどう解きほぐし、どのように変革を実現していくかを解説していきます。
第1回:病院経営の転換点 ― “人がいても動かない構造”を変える(今回)
第2回:STEP1 ― 稼働病床を増やす。受け入れられない病棟を動かす
第3回:STEP2 ― 人件費を適正化し、“整う組織”へ
第4回:STEP3 ― 生まれた利益を未来へ再投資する
第5回:仕組みだけでなく文化を変える ― 持続的に動き続ける病院へ
■ まとめ
病院改革の第一歩は、「人を増やすこと」ではない。
“人がいても動かない構造を変える”こと。
そしてその変革は、いつも看護部から始まる。
次回(第2回)は、
「STEP1:稼働病床を増やす」― “受け入れられない病棟”を“動く病棟”に変える方法
について、具体的な改善アプローチと経営効果を詳しくご紹介します。
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この記事を書いた人

著者名
兄井 利昌
役職
業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー


業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

