株式会社日本経営

なぜ『リーダーシップを発揮しなさい』では動けないのか|第30回日本看護管理学会 開催レポート

著者名

兄井 利昌

2026年8月26日

第30回日本看護管理学会学術集会 スイーツセミナーを開催しました。

「リーダーシップを発揮しなさい」では、なぜ現場は動けないのか

2026年8月21日、第30回日本看護管理学会学術集会においてスイーツセミナーを開催しました。

第30回日本看護管理学会学術集会には約7,333名が参加し、盛会のうちに終了しました。

当社のスイーツセミナーは、定員240名の事前申込が満員となり、当日も予約外の参加者が多数来場され、立ち見が出るほどの盛況となりました。

多くの皆さまにご参加いただき、看護現場における「リーダーシップ」や「人材育成」への関心の高さを、改めて感じる機会となりました。


「もっとリーダーシップを発揮して」で、人は動けるのか

座長には、一宮研伸大学 学長の大久保清子先生をお迎えし、株式会社日本経営 業務プロセス改善コンサルティング部 部長 兄井利昌が、

「なぜ『リーダーシップを発揮しなさい』では動けないのか
―患者価値を高めるための看護リーダーシップの仕組みづくり―」

をテーマに講演しました。

講演の冒頭で取り上げたのは、ある中堅看護師の事例です。

患者さんへの支援について「もっとこうした方がよいのでは」と気づいていても、

「私が言うことなのだろうか」
「主任や師長が考えることではないか」

と考え、周囲への働きかけには至らない。

その一方で、上司からは「中堅なのだから、もっとリーダーシップを発揮してほしい」と求められます。

そこで兄井は、

本当にその人に「リーダーシップがない」のか。
むしろ、「リーダーシップを発揮しない方が合理的になる構造」が職場にあるのではないか。

という視点を提示しました。


看護リーダーシップをどう捉えるか

本講演では、看護リーダーシップを、

「患者にとってより良い状態を実現するために、必要な変化に気づき、周囲に働きかけ、実際の変化につなげること」

と定義しました。

つまり、リーダーシップは一部の管理職や、いわゆる「カリスマ性のある人」だけが発揮するものではありません。

現場で、

気づく → 考える → 選ぶ → 働きかける → 巻き込む → 変化を起こす

という一連の行動をとることそのものが、リーダーシップだと考えます。


リーダーシップを阻んでいる「5つの構造」

講演では、現場でリーダーシップが発揮されにくくなる背景として、5つの構造を紹介しました。

1.患者価値と日々の仕事がつながっていない

在院日数の短縮、残業削減、退院支援、DXなど、病院にはさまざまな目標があります。

しかし、その目標を達成することで、

「患者さんにどのような価値を生み出したいのか」

まで現場に共有されていなければ、人は周囲を巻き込んでまで変化を起こしにくくなります。

数字や業務目標だけではなく、

「これによって患者さんのそばにいられる時間が増える」
「自分たちが本当にやりたい看護につながる」

という意味までつなげていくことが重要です。

2.考える余白がない

ナースコール、記録、点滴、処置、入退院対応、会議、委員会、教育。

日々の業務を終えるだけで一日が終わってしまう中で、

「もっと患者のことを考えて」
「業務改善を」
「後輩育成を」
「もっとリーダーシップを」

と求めても、明日のことを考える余白を持つことは容易ではありません。

リーダーシップを求めるのであれば、考える時間そのものを組織として意図的につくることも必要になります。

3.考えても、自分で選べない

「もっと自分で考えて」と言われる一方で、いざ何かを変えようとすると、

「まず師長に確認して」
「委員会で決めることだから」

となれば、自ら意思決定する経験は生まれません。

必要なのは、

「ここはあなたが考え、選んでよい」

という意思決定の余地を残すことです。

4.周囲に働きかけることが難しい

看護の仕事は、一人では完結しません。

退院支援ひとつをとっても、医師、薬剤師、リハビリスタッフ、MSW、病棟スタッフ、地域連携部門など、多くの人との調整が必要です。

その中で、

「医師には言いにくい」
「先輩に反対されたくない」
「余計な仕事だと思われたくない」

といった“壁”があれば、周囲への働きかけは難しくなります。

リーダーシップは、必ず他者との関係性の中で発揮される行為でもあります。

5.管理者がリーダーシップを代行している

部下から相談されたとき、

「私から医師に言っておく」
「地域連携室と調整しておく」
「こうすればいいよ」

と管理者が答えを出してしまう方が、短期的には早いかもしれません。

しかし、それを続けることで本人は、

考える、伝える、反対される、聴く、調整する、合意する

といった経験を得ることができません。

管理者が問題を解決し続けることが、結果として現場の人がリーダーシップを発揮する機会を奪っている場合もあります。


「教えて育てる」から「経験を設計して育てる」へ

では、リーダーシップはどのように育てればよいのでしょうか。

講演で強調したのは、

リーダーシップは、一度の研修だけでは身につかない

ということです。

知識をインプットすることは大切です。

しかし、それだけでは翌日から人や組織を動かせるようになるわけではありません。

必要なのは、

やってみる

壁にぶつかる

修正する

もう一度やる

振り返る

という経験を繰り返すことです。

従来の「教えて育てる」から、「経験を設計して育てる」へ転換することが重要です。


管理者に求められるのは「答え」ではなく「支援」

本人が動ける環境をつくるためには、管理者の関わり方も変わります。

管理者がすぐに答えを示すのではなく、

「ここから何が見えますか?」
「本当はどうなっていた方がよかった?」
「あなたはどうしたい?」

と問いかける。

自分で課題に気づき、自分で考え、自分で選ぶ経験を増やしていきます。

そして、完璧に成功させることだけを求めるのではなく、小さく実践し、振り返り、修正する経験を積んでもらうことも重要です。

講演では、

「失敗しない人」を育てるのではなく、「失敗から学べるリーダー」を育てる

という考え方も紹介しました。


改善活動を「人材育成の場」にする

こうしたリーダーシップ育成の実践の場として、兄井が挙げたのが改善活動です。

改善活動では、

課題に気づく

原因を考える

自分たちで方法を選ぶ

周囲に働きかける

実践する

結果を確認する

振り返る

という、リーダーシップに必要な経験を実際の仕事の中で積むことができます。

改善活動を単に「業務を効率化する活動」とするのではなく、人材育成の仕組みとして意図的に設計することで、患者価値の向上と人材育成を同時に実現することができます。

こうした経験を重ねることで、現場の中から組織や仕事のあり方を変えていくChange Agent(チェンジエージェント)を育てていくことにもつながります。


フォロワーシップをどう育てるか

講演後の質疑応答では、フォロワーシップを発揮できる病棟・組織づくりについても質問が寄せられました。

兄井からは、一度に組織全体を変えようとするのではなく、

まず一つのモデル病棟で、意図的にフォロワーシップの強い環境をつくる。
そこで改善活動を成功させ、その成果を他病棟へ展開していく。

という実践例を紹介しました。

「全員に変わってほしい」と呼びかけるだけではなく、小さな成功例を組織の中につくり、その実践を横展開していくことも、組織変革の一つの方法です。


患者価値に向かって、誰もが一歩を踏み出せる組織へ

講演を受け、大久保先生からは、

個人に意識改革を迫るのではなく、管理者が本人に働きかけ、支援・伴走しながら、小さな成功体験を意図的につくっていくこと。

そして、そのベクトルを患者価値の向上に向けていくことの重要性についてコメントをいただきました。

「もっと主体的に」
「もっとリーダーシップを」

と本人に求めるだけでは、現場は変わりません。

重要なのは、

本人を育てること。
そして、リーダーシップが発揮される環境をつくること。

その両方を組織として設計していくことです。

今回のスイーツセミナーが、参加された皆さまにとって、それぞれの職場における人材育成や組織づくりを改めて考えるきっかけとなれば幸いです。

ご参加いただいた皆さま、ならびに開催にあたりご尽力いただきました学会関係者の皆さまに、心より御礼申し上げます。


セミナー資料をご希望の方へ

本セミナーの資料をご希望の方は、下記フォームよりお申し込みください。

お申し込みの際は、セミナーレジュメ欄に

「なぜ『リーダーシップを発揮しなさい』では動けないのか」
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https://nkgr.smktg.jp/public/application/add/13298

この記事を書いた人

著者名

兄井 利昌

役職

業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー

業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

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