株式会社日本経営

若手看護師が辞めない病棟へ――病棟師長を一人にしない業務改善

著者名

兄井 利昌

2026年5月18日

病院経営を取り巻く環境が厳しさを増す中、看護部の安定は、病院戦略を実行する上で欠かせない要素となっています。

若手看護師の定着を実現するためには、病棟師長一人の努力に頼るのではなく、看護部長、経営幹部、事務部門が一体となって支える仕組みが必要です。

本稿では、若手看護師が辞めない病棟づくりと、病棟師長を一人にしない業務改善の考え方を整理します。

病棟師長を一人にしない業務改善が、看護部の定着と病院経営を支える

病院経営を取り巻く環境は、ますます厳しさを増しています。診療報酬改定への対応、救急搬送の受け入れ体制、病床稼働、働き方改革、人件費・物価高騰への対応など、病院には多くの経営課題が同時に押し寄せています。

その中で、病院の方針や戦略を実際に動かしていく上で、看護部の役割は非常に大きくなっています。

たとえば、救急搬送を受け入れる、手術後の患者を安全に病棟へつなぐ、ベッドコントロールを行う、多職種と連携して退院支援を進める。こうした病院運営の要所には、必ず看護師の判断と行動があります。

つまり、病院がどれだけ優れた戦略を掲げても、看護部が疲弊し、人が定着せず、病棟運営が不安定であれば、その戦略は現場で実行されにくくなります。

若手看護師の定着は、単なる人事課題ではありません。
病院経営の実行力を支える、重要な経営課題です。

離職防止は「欠員補充」だけでは解決しない

若手看護師の離職が続くと、現場ではまず「人が足りない」「採用しなければならない」という課題として認識されます。

もちろん、採用は重要です。しかし、採用だけで離職の問題を解決しようとすると、同じ課題を繰り返すことになりかねません。

重要なのは、なぜ若手看護師が定着しにくいのかを、現場の実態に即して見直すことです。

「最近の若手は続かない」
「うちの職場に合わなかった」
「もっと即戦力がほしい」

こうした言葉で片づけてしまうと、組織側が変えるべき課題が見えにくくなります。

人材が豊富だった時代であれば、厳しい環境に耐えられる人が残る、という考え方でも組織が維持できたかもしれません。しかし、人材確保が難しくなっている現在では、入職した職員をどう育て、どう支え、どう定着につなげるかが、病院全体の課題になります。

離職防止は、職員個人の適応力だけに委ねるものではありません。
組織として、若手が育ち続けられる環境をつくることが求められています。

病棟師長に負荷が集中していないか

若手看護師の定着を考える上で、病棟師長の存在は非常に重要です。

若手看護師に最も近く、日々の業務、教育、相談、勤務調整、患者対応、多職種連携などを担う病棟師長は、病棟運営の中心にいます。

しかし、多くの病院で、病棟師長には過度な負荷がかかっています。

現場が忙しい。
欠員が出ている。
若手が育たない。
時間外が減らない。
改善活動も進めなければならない。

こうした課題が積み重なる中で、責任感の強い病棟師長ほど「自分が何とかしなければ」と抱え込みがちです。

その結果、病棟師長自身が現場業務に入り込み、マネジメントに時間を使えなくなる。改善活動を進める余力もなくなる。若手の育成や定着に向けた関わりも、十分に行えなくなる。

この状態で「若手看護師の離職を防いでほしい」「病棟を安定させてほしい」と病棟師長に求めても、成果につながりにくくなります。

問題は、病棟師長の能力や意欲ではありません。
病棟師長を一人にしている構造にあります。

これから求められる病棟師長像

これまでの病棟師長には、「自らが先頭に立って引っ張る」役割が強く求められてきました。

自分が動く。
自分が判断する。
自分が背中を見せる。
自分が現場を支える。

もちろん、こうした姿勢は大切です。しかし、医療現場の業務量や判断の複雑性が増している現在、病棟師長一人の頑張りだけで病棟を支え続けることには限界があります。

これから求められるのは、病棟師長がすべてを抱え込むことではありません。

メンバーが力を発揮できる環境をつくること。
若手が相談しやすい関係性をつくること。
主任やリーダーが役割を持って動けるようにすること。
業務改善を一人の努力ではなく、チームの仕組みとして回すこと。

病棟師長の役割は、「自分が成果を出す人」から「チームが成果を出せるように支える人」へと変わっていく必要があります。

その転換を、病棟師長個人の努力に任せるのではなく、看護部全体、さらには病院全体で支えていくことが重要です。

業務改善は「病棟師長任せ」にしない

業務改善は、若手看護師の定着にもつながります。

なぜなら、若手が辞めたくなる背景には、単に人間関係だけでなく、「忙しすぎる」「何のためにこの業務をしているのかわからない」「相談する余裕がない」「育ててもらっている実感がない」といった、日々の業務構造の問題が関係していることが多いからです。

しかし、業務改善そのものが病棟師長の負担になってしまうケースも少なくありません。

改善活動を始めたものの、担当者が曖昧である。
何をもって成果とするのか決まっていない。
実施後の振り返りがない。
会議で報告するだけで、次の行動につながらない。
結局、病棟師長だけが抱えてしまう。

このような状態では、改善活動は継続しません。

業務改善を進めるためには、病棟師長を中心にしながらも、病院としての支援体制を明確にする必要があります。

たとえば、看護部長や副院長はプロジェクトのスポンサーとして、方針づけや支援を行う。病棟師長は現場課題の設計や進行を担う。主任やリーダーは、日々の実行を支える。事務部門は、データや運営面からサポートする。

このように、役割を明確にすることで、改善活動は「師長一人の頑張り」ではなく、「病院としての取り組み」になります。

経営幹部が見るべきは、数字だけではない

経営幹部や事務部門にとって、看護部の状況を数字で把握することは重要です。

病床稼働率、在院日数、救急受け入れ件数、時間外勤務、離職率、人員配置など、経営判断に必要な指標は数多くあります。

しかし、数字だけでは見えないものがあります。

たとえば、人員配置上は充足しているように見えても、予定外入院が多い、医師の指示が遅い、退院調整が進まない、記録や申し送りに時間を取られているなど、現場には数字だけでは把握しきれない負荷があります。

「基準上は足りているはずなのに、なぜ現場は忙しいのか」
「病床を開けたいのに、なぜ受け入れが進まないのか」
「改善を進めたいのに、なぜ現場が動けないのか」

その答えは、現場の業務プロセスの中にあります。

経営幹部や事務部門が看護部を支えるためには、数字を見るだけでなく、現場で何が起きているのかを共に見に行くことが重要です。

現場を見るときに大切なのは、「何が問題か」を探すことだけではありません。
「患者に何が起きているか」「職員はどこで困っているか」を見ることです。

その視点を持つことで、看護部と経営幹部、事務部門が同じ方向を向いて話し合いやすくなります。

若手看護師の定着は、病院の未来を支える

若手看護師の離職防止は、採用部門や看護部だけの課題ではありません。

若手が定着しなければ、中堅層が育ちません。
中堅層が育たなければ、次の主任・師長候補が生まれません。
病棟師長が孤立すれば、病棟運営はますます属人的になります。
病棟運営が不安定になれば、救急受け入れや病床運営にも影響します。

つまり、若手看護師の定着は、将来の看護管理者育成、病棟運営、地域医療への貢献、そして病院経営の持続可能性につながっています。

だからこそ、病院として考えるべきことは、単に「離職率を下げること」ではありません。

若手が育ち続けられる病棟をどうつくるか。
病棟師長を一人にしない体制をどうつくるか。
看護部の業務改善を、病院戦略の中にどう位置づけるか。

この視点が、これからの病院経営には欠かせません。

まとめ

人が減っても病院経営を継続していくためには、看護部の安定が不可欠です。

そして、看護部の安定を支えるためには、若手看護師の定着と、病棟師長の成長を切り離して考えることはできません。

若手看護師が辞めない病棟をつくるためには、病棟師長一人の努力に頼るのではなく、看護部長、経営幹部、事務部門が共に支える仕組みが必要です。

業務改善は、単なる現場の効率化ではありません。
看護部が病院の方針を実行し、患者に価値を届け、地域医療を支え続けるための経営戦略です。

病棟師長を一人にしない。
若手看護師が育ち続けられる病棟をつくる。
看護部の力を、病院経営の実行力に変えていく。

それが、これからの病院経営に求められる看護部改革の第一歩です。

この記事を書いた人

著者名

兄井 利昌

役職

業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー

業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

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