(全5回シリーズ「看護部から病院を変える」)
第1回では、病院経営の根本課題が「人がいない」ことではなく、
“人がいても動かない構造”にあることをお伝えしました。
今回のテーマは、その構造を変える第一歩、
「稼働病床を増やす」=“動く病棟”をつくるです。
■ なぜ、病床が“動かない”のか
看護師数は充足している。
しかし、「患者を受け入れられない」「稼働が上がらない」。
現場でよく聞かれるこの状況の多くは、業務の“流れ”と“時間の使われ方”に原因があります。
例えば、
退院予定が共有されず、ベッド調整が後手に回る
入退院のピークが重なり、短時間に業務が集中する
情報共有が紙・口頭・LINEなど多チャンネルで混在し、伝達漏れが起こる
結果として、「受け入れ余力があるのに受け入れられない」状態が発生します。
これは、単なる繁忙ではなく、プロセス設計の歪みによる「構造的停滞」です。
■ 稼働病床の増加がもたらす経営インパクト
1床あたり年間約2,000万円の入院収益とすると、基準50床のうち30床しか稼働していなかった病棟を、45床まで稼働させることができれば、15床 × 2,000万円 = 年間3億円の収益改善効果が見込まれます。
もちろんこれは単純計算であり、ケースによって差はありますが、「受け入れられない理由」を取り除くだけで、構造的に失っていた収益を回復できるという点が重要です。
■ 稼働を上げる鍵は、“業務の流れ”の見直しにある
稼働率を上げるための解決策は、「もっと頑張る」ことではありません。
必要なのは、“動かす仕組み”の再設計です。
私たちは、VSM(Value Stream Mapping:業務の流れの可視化)を用い、入院から退院までの業務を時系列で可視化します。
この分析により、
時間が停滞している工程(例:入退院調整、検査待ち、記録)
情報が滞留しているポイント(例:申し送り、ベッドコントロール)
無駄な手戻りが発生している場面(例:入力・転記の重複)
を特定し、業務フローを再設計します。
この“構造の見直し”によって、現場が驚くほどスムーズに動き始めます。
■ 改善のステップ:モデル病棟から始める
1.現状把握
入退院の流れ、記録・調整・指示系統をVSMで可視化。
「何が忙しさを生んでいるのか」を定量的に把握します。
2.改善設計
「退院予測の見える化」「入退院バランスの平準化」
「チーム内共有ルールの標準化」など、
業務改善を“仕組み”として設計します。
3.実行・検証
モデル病棟で改善施策を実行し、2週間単位でPDCAを回す。
成果(稼働病床数・平均在院日数・職員負担感など)を定点で可視化。
4.他病棟への波及
モデル病棟で得た成功パターンを標準化し、
他病棟・他職種へ展開します。
■ “受け入れられない”を“動く”に変えるために
「稼働が上がらない」という問題は、単に人手やベッド数の問題ではなく、プロセスの整流化と文化の変化が必要なテーマです。
退院支援が早期に動く
情報共有が一元化される
ベッド調整がリアルタイムで見える
こうした変化が積み重なることで、
現場は「やらされる改善」から「動くチーム」へ変わっていきます。
稼働病床の増加は“経営余力”をつくる
稼働病床が増えれば、収益は直接的に向上します。
しかし本当の価値は、「経営余力が生まれる」ことです。
この余力があるからこそ、次のステップ ― 人件費の適正化(STEP2) ― に進むことができます。
逆に、余力のない状態でコスト削減を進めても、現場は疲弊するだけです。
■ まとめ
稼働病床を増やすことは、単なる“ベッドを埋める”話ではありません。
“動く病棟”をつくり、病院経営の土台を取り戻すことです。
看護部が動けば、病棟が動き、病院が動く。
そしてそれが、次の改革への出発点となります。
次回(第3回)は、
「STEP2:人件費を適正化する ― “整う組織”をどうつくるか」をテーマに、
自然退職と採用抑制を活かした“穏やかな最適化”の手法を解説します。
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この記事を書いた人

著者名
兄井 利昌
役職
業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー


業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

