株式会社日本経営

【病院改革コラム連載 第3回】STEP2:人件費を適正化する ― “整う組織”をどうつくるか

著者名

兄井 利昌

2025年11月10日

(全5回シリーズ「看護部から病院を変える」)


前回(第2回)では、「稼働病床を増やす」ことで、
“動く病棟”をつくり、収益構造を取り戻す第一歩をお伝えしました。

今回は、その次のステップである
「人件費の適正化」=“整う組織”をつくるです。


■ なぜ「人件費の最適化」が進まないのか

10対1への機能転換が進む中で、多くの病院で見られるのが次のような現象です。

  • 「10対1に変わったが、人はそのまま」

  • 「看護師は足りているが、減らす判断ができない」

  • 「現場が忙しいため、結局採用を止められない」

この状態が続くと、人件費が固定化し、収益に見合わないコスト構造が生まれます。
つまり、制度的には10対1でも、実態は7対1のコストを抱えたままの病院が少なくありません。
本来、機能転換の目的は“収益構造の適正化”であるはずが、結果として構造的な高コスト体質を残してしまうのです。


■ 「減らす」ではなく「整える」発想へ

人件費の最適化とは、「削減」ではなく「整流化」です。
私たちは、現場の業務量と人員配置のバランスをデータで可視化し、「必要な人員構造」を科学的に設計します。
この際に重要なのが、以下の3つの視点です。

1.業務量の可視化
 ・1人あたりの業務時間(直接ケア・間接ケア・記録・会議など)を定量化
 ・残業・休憩・離職などの実態を把握し、業務負荷の偏りを分析

2.人員配置の適正化
 ・病棟ごとの機能(急性期・回復期など)に合わせた必要人員数を算出
 ・患者構成と必要度に基づく科学的配置モデルを構築

3.人の動かし方の最適化
 ・業務の分担・委譲・ローテーションを見直し、
  「減らす」ではなく「動きを整える」ことで生産性を高める

これにより、“人を減らさずにコスト構造を整える”ことが可能になります。


■ 穏やかな最適化:自然退職+採用抑制

人件費最適化で最も重要なのは、“急激に減らさないこと”です。

私たちは、

  • 自然退職(年間数%の退職率)

  • 採用抑制(補充を計画的に止める)
    を組み合わせて、穏やかに最適化するアプローチをとります。

これにより、現場に混乱を与えず、1年〜2年で年間約2,750万円(550万円×5人)規模の人件費是正を見込むことができます。


■ “整う組織”は、生産性が上がるだけでなく、離職も減る

「人件費の適正化」という言葉には、冷たさを感じる方もいるかもしれません。
しかし実際には、人が安心して働ける職場を取り戻すプロセスでもあります。

業務が整えば、

  • 残業が減る

  • 休日が確保される

  • 教育・チーム会議などに時間を使える
    といった“余白”が生まれます。

その結果、
離職率の低下 → 採用コストの減少 → 組織の安定化
という好循環が起こります。

「整う組織」とは、
単に人件費が下がる組織ではなく、“人が定着し、成果が出る組織”なのです。


■ 数字で見える「構造改革の効果」

指標

Before

After(想定)

改善効果

稼働病床数

30床

45床

年間約3億円の増収効果(1床2,000万円換算)

看護師数(常勤換算)

50人

約45人(自然退職分の補充抑制)

年間約2,750万円の人件費最適化(550万円×5人)

時間外労働

月20時間/人

月10時間/人

残業削減+離職防止効果

これらの効果は、いずれも「構造を整える」ことの結果です。
努力や精神論ではなく、プロセス設計とデータに基づいた改革が鍵になります。


■ まとめ

人件費の適正化は「人を減らす」ことではなく、
“人が活かされる構造を取り戻す”こと。

構造が整えば、数字が変わり、文化が変わる。
そしてそれが、病院の持続可能性を支える最も確実な方法です。


次回(第4回)は、
「STEP3:生まれた利益を未来へ再投資する」― 経営余力をどう使うか
をテーマに、DX・人材育成・地域連携への展開モデルを紹介します。

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この記事を書いた人

著者名

兄井 利昌

役職

業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー

業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

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