株式会社日本経営

【看護部DXコラム連載 第1回】なぜ今、看護部DXが必要なのか ― “入れるDX”から“動かすDX”へ

著者名

兄井 利昌

2025年12月1日

(全5回シリーズ「看護部DXが生み出す“新しい時間”と“新しい可能性”」)


いま、医療業界はかつてない転換点に立っています。
少子高齢化による医療需要の増大と、生産年齢人口の急減。
人材不足の深刻化に加え、医師の働き方改革、看護職の確保難。
そして、診療報酬改定による機能転換の波が押し寄せています。

こうした構造的課題に対し、国は「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進しています。
厚生労働省・デジタル庁による医療DX推進本部が設置され、
「医療・介護分野の生産性向上」「業務効率化」「データ利活用」を柱とした改革が加速しています。
また、骨太方針2025では、電子カルテ標準化・データ連携・看護必要度の電子化などが明示され、
医療機関における“デジタルを活用した経営と運営”が評価対象へと変わりつつあります。


しかし、現場を見渡すと――。

「システムは入れたけれど、現場では活用されていない」
「一部の病棟だけが使いこなしていて、全体に広がらない」
「むしろ入力や管理が増えて、業務が重くなった」

そんな声が少なくありません。
つまり、“入れるDX”は進んでも、“動かすDX”にはなっていないのです。


では、なぜ動かないのでしょうか。

それは、DXを「システム導入のプロジェクト」と捉えているからです。
DXの本質は、単なるIT化や電子化ではありません。
業務そのものを再設計し、組織全体の働き方や判断の仕組みを変える“経営改革”なのです。

私たちはこの構造を、現場を支援する中で何度も目にしてきました。
システムを入れることで業務が変わると思われがちですが、
実際には「どう使うか」よりも前に、「どう変えたいか」が明確でないまま導入されてしまうケースが多い。
結果として、入力が増え、現場が疲弊し、DXに対する不信感が生まれてしまいます。


看護部は、そんなDX改革の“心臓部”です。
病院の中で最も広い範囲で業務を担い、
患者のケア・記録・多職種連携・ベッドコントロールといった、
“病院運営の血流”を直接動かしているのが看護部です。

だからこそ、看護部が動けば病院が動きます。
看護必要度、入退院支援、稼働病床など――
どれもデータの運用・業務の整流化が成果を左右する領域です。

DXを単なる効率化のツールではなく、「看護のあり方そのものを見直す起点」とすることで、病院全体が変わる可能性を持っています。


もし、DXによって1人あたり1日30分でも時間が生まれたとしたら。
その時間を、患者にもう一言かける時間に使えるかもしれません。
後輩の成長を見守る時間に使えるかもしれません。
あるいは、病院の未来を考える時間に使うこともできます。

この“生まれた時間”こそが、看護部DXの最大の成果であり、
「新しい可能性」への投資の原資です。

DXとは、時間を取り戻すことではなく、時間を創り出し、その時間で未来をつくる仕組み。
そしてその第一歩は、「システムをどう使うか」ではなく、
「現場をどう動かすか」を考えることから始まります。


このコラムでは、そんな「看護部を起点としたDX改革」を、全5回シリーズでお届けします。

  1.  なぜ今、看護部DXが必要なのか(今回)

  2.  DXが進まない理由 ― なぜシステムを入れても変わらないのか

  3.  看護部を起点に動かすDX ― 分析・設計・実行の3ステップ

  4.  DXが生み出す“新しい時間” ― 成果を可視化する3つの視点

  5.  DXの目的は“時間の再配分” ― 新しい可能性に挑む病院へ


第2回では、
「なぜ多くの病院でDXが形骸化するのか」、
「なぜ現場に定着しないのか」――
その本質的な理由を掘り下げながら、
“文化としてのDX”という視点から、変革のヒントをお伝えします。

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この記事を書いた人

著者名

兄井 利昌

役職

業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー

業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

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