(全5回シリーズ「看護部DXが生み出す“新しい時間”と“新しい可能性”」)
いま、医療業界はかつてない転換点に立っています。
少子高齢化による医療需要の増大と、生産年齢人口の急減。
人材不足の深刻化に加え、医師の働き方改革、看護職の確保難。
そして、診療報酬改定による機能転換の波が押し寄せています。
こうした構造的課題に対し、国は「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進しています。
厚生労働省・デジタル庁による医療DX推進本部が設置され、
「医療・介護分野の生産性向上」「業務効率化」「データ利活用」を柱とした改革が加速しています。
また、骨太方針2025では、電子カルテ標準化・データ連携・看護必要度の電子化などが明示され、
医療機関における“デジタルを活用した経営と運営”が評価対象へと変わりつつあります。
しかし、現場を見渡すと――。
「システムは入れたけれど、現場では活用されていない」
「一部の病棟だけが使いこなしていて、全体に広がらない」
「むしろ入力や管理が増えて、業務が重くなった」
そんな声が少なくありません。
つまり、“入れるDX”は進んでも、“動かすDX”にはなっていないのです。
では、なぜ動かないのでしょうか。
それは、DXを「システム導入のプロジェクト」と捉えているからです。
DXの本質は、単なるIT化や電子化ではありません。
業務そのものを再設計し、組織全体の働き方や判断の仕組みを変える“経営改革”なのです。
私たちはこの構造を、現場を支援する中で何度も目にしてきました。
システムを入れることで業務が変わると思われがちですが、
実際には「どう使うか」よりも前に、「どう変えたいか」が明確でないまま導入されてしまうケースが多い。
結果として、入力が増え、現場が疲弊し、DXに対する不信感が生まれてしまいます。
看護部は、そんなDX改革の“心臓部”です。
病院の中で最も広い範囲で業務を担い、
患者のケア・記録・多職種連携・ベッドコントロールといった、
“病院運営の血流”を直接動かしているのが看護部です。
だからこそ、看護部が動けば病院が動きます。
看護必要度、入退院支援、稼働病床など――
どれもデータの運用・業務の整流化が成果を左右する領域です。
DXを単なる効率化のツールではなく、「看護のあり方そのものを見直す起点」とすることで、病院全体が変わる可能性を持っています。
もし、DXによって1人あたり1日30分でも時間が生まれたとしたら。
その時間を、患者にもう一言かける時間に使えるかもしれません。
後輩の成長を見守る時間に使えるかもしれません。
あるいは、病院の未来を考える時間に使うこともできます。
この“生まれた時間”こそが、看護部DXの最大の成果であり、
「新しい可能性」への投資の原資です。
DXとは、時間を取り戻すことではなく、時間を創り出し、その時間で未来をつくる仕組み。
そしてその第一歩は、「システムをどう使うか」ではなく、
「現場をどう動かすか」を考えることから始まります。
このコラムでは、そんな「看護部を起点としたDX改革」を、全5回シリーズでお届けします。
なぜ今、看護部DXが必要なのか(今回)
DXが進まない理由 ― なぜシステムを入れても変わらないのか
看護部を起点に動かすDX ― 分析・設計・実行の3ステップ
DXが生み出す“新しい時間” ― 成果を可視化する3つの視点
DXの目的は“時間の再配分” ― 新しい可能性に挑む病院へ
第2回では、
「なぜ多くの病院でDXが形骸化するのか」、
「なぜ現場に定着しないのか」――
その本質的な理由を掘り下げながら、
“文化としてのDX”という視点から、変革のヒントをお伝えします。
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この記事を書いた人

著者名
兄井 利昌
役職
業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー


業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

