(全5回シリーズ「看護部DXが生み出す“新しい時間”と“新しい可能性”」)
第1回でお伝えしたとおり、
医療現場ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が急速に進んでいます。
しかし実際には、システムを導入しただけで「現場が変わらない」「効果が見えない」
という病院が少なくありません。
導入時には“便利になるはず”と期待されたはずのツールが、結果的に「手間が増えただけ」と感じられてしまう――。
この現象は、なぜ起こるのでしょうか。
■ 1. DXが進まない「三つの構造的な壁」
DXが定着しない背景には、大きく三つの壁があります。
それは、「構造」「文化」「現場」の壁です。
① 構造の壁 ― DXを“導入プロジェクト”で終わらせてしまう
多くの病院では、DXが「システム導入事業」として進められます。
ベンダー選定・費用検討・操作研修…。
しかし、本来DXは「業務をどう変えるか」を起点に考えるべきもの。
どんなに優れたシステムを入れても、業務の流れや役割分担が変わらなければ、現場の忙しさも質も変わりません。
“導入”をゴールにしてしまうことが、最初のつまずきです。
② 文化の壁 ― 「変えること」への心理的抵抗
医療の世界は、正確さと安全を最優先にする文化です。
そのため、新しい仕組みややり方に対して慎重になるのは当然のこと。
しかし、「今まで通りが一番安心」という空気が強くなりすぎると、改善や新しい挑戦が進まなくなります。
DXが「効率化のための押しつけ」と感じられてしまうと、現場は防衛的になり、変化への力が失われてしまうのです。
③ 現場の壁 ― 「誰のためのDXなのか」が共有されていない
導入時に「目的」が十分に語られないまま、「操作を覚えて」「入力を増やして」という形でDXが進むと、職員の中で“やらされ感”が強まります。
本来DXは、現場を助け、患者を支え、医療の質を上げるためのもの。
その意義を共有しなければ、DXは「現場の負担を増やす存在」となってしまいます。
■ 2. DXは“仕組み”ではなく“行動”である
DXが進まない最大の理由は、それが「行動の変化を伴っていない」からです。
私たちが支援に入ると、最初に行うのは「VSM(バリューストリームマッピング)」という業務可視化です。
たとえば、記録・転記・申し送り・情報共有といった一連の流れを具体的に書き出してみると、そこに「待ち時間」「確認の重複」「入力の二度手間」が浮かび上がります。
DXとは、そのムダを“テクノロジーでなくすこと”ではなく、
“現場が気づき、変えるきっかけを持つこと”なのです。
新しいシステムは、その気づきを実現する道具にすぎません。
つまり、DXとは「導入の成否」ではなく、
「現場がどう動き始めたか」で評価されるべきなのです。
■ 3. DXを“業務改善”として再設計する
では、どうすればDXが動くようになるのか。
その答えは、DXを「ITプロジェクト」ではなく、「業務改善プロジェクト」として設計し直すことです。
DXを動かすためには、次の三つが欠かせません。
目的の明確化 ― DXで何を解決したいのか、誰のためにやるのかを言語化する。
プロセスの再設計 ― システムに合わせるのではなく、業務の流れを見直す。
現場との共創 ― 看護部を中心に、現場の意見を吸い上げながら進める。
これができると、DXは“上から降りてくるもの”ではなく、
“自分たちが動かすもの”に変わります。
■ 4. DXは「文化を変える仕組み」である
DXを進めるうえで最も重要なのは、文化を変える視点です。
新しいシステムを使うことが目的ではなく、
それを通じて「学び」「考え」「改善する風土」を育てること。
この文化が根づけば、DXは“プロジェクト”ではなく“日常”になります。
看護部がその先頭に立ち、
「現場を変える」「自分たちで考える」取り組みを始めたとき、
病院全体の空気が変わり始めます。
■ まとめ
DXが進まないのは、技術が足りないからではない。
変化の設計と、変化を支える文化が足りないから。
DXを“業務改善”として再設計すれば、
システムは動き、現場は動き、病院が変わる。
次回(第3回)は、いよいよ「看護部を起点にDXを動かす実践」についてお話しします。
現状分析から改善設計、そして実行支援まで、
どのようにDXが“現場の力”として根づいていくのかを具体的にご紹介します。
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この記事を書いた人

著者名
兄井 利昌
役職
業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー


業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

