人員不足(離職率の上昇等)、生産性の低下(時間外労働の増加等)、そして厳しさを増す病院経営。多くの病院が改革に着手している一方で、期待したほどの成果が出ず、取り組みが途中で止まってしまうケースも少なくありません。
本連載では、看護部を起点に改革を進め、離職率改善や時間外労働削減など、実際に成果を上げてきた病院の事例をもとに、病院が変わるための条件を整理します。
鍵となるのは、戦略ではなく実行力。
忙しさに埋もれがちな現場で、改善を回し続けるための考え方と仕組みを、NKリーンマネジメントの視点から解説していきます。
看護部から始まった改革は、やがて病院全体を動かします。本連載が、病院の「次の一歩」を考えるきっかけになれば幸いです。
第1回|なぜ今、病院は変わらなければならないのか
第2回|看護部改革が「実行力の差」を生む理由
第3回|忙しいのに成果が出ない病院の構造とLEANの役割
第4回|NKリーンマネジメントとは何か
第5回|NKリーンマネジメントで成果を出し続ける病院の条件
なぜ今、病院は変わらなければならないのか
――看護部から始まった改革が、経営数字を動かした理由
いま、多くの病院が同時に三つの課題を抱えています。
人員不足(離職率の上昇等)、生産性の低下(時間外労働の増加等)、そして経営状況の悪化です。これらは個別の問題ではなく、相互に影響し合いながら病院全体を圧迫しています。
医療の質は維持しなければならない。 しかし現場の負担は限界に近づき、経営には余力がない。
「何かを変えなければならない」と分かっていても、どこから手をつけるべきか分からない
多くの病院が、その状態にあります。
医療業界は、診療報酬制度によって収益構造が大きく規定されており、他産業のように戦略そのもので大きな差別化を図ることは容易ではありません。
それでも現実には、黒字を維持している病院と、赤字に苦しむ病院がはっきりと分かれています。
この差を生んでいるのは、戦略の巧拙ではありません。
「実行の徹底度」です。
そのことを端的に示すのが、看護部を起点に改革を進めた病院の事例です。
離職率5.5ポイント改善、年間1,600万円超の人件費削減
――500床規模救急病院の事例
関東にある病床数500床規模の救急病院では、看護現場の疲弊が深刻な課題となっていました。
業務の属人化と過重な負担により離職者が増加し、病棟稼働率は低下。
ついには病棟の一部を閉鎖せざるを得ない状況にまで追い込まれていました。
現場には改善の余力がなく、「言われたことだけを行う」指示待ちの空気が定着していました。
結果として、現場の忙しさは増す一方で、経営面でも負担が積み上がっていきました。
この病院では、看護部を起点に業務の流れを見直し、改善を仕組みとして回す取り組みを開始しました。
その結果、離職率は前年比で5.5ポイント改善。
閉鎖の危機にあった病棟も、再建に向けて稼働を回復させることができました。
さらに、時間外勤務の削減によって、理論値ベースで年間約1,644万円の人件費削減を実現しています。
注目すべきは、単なるコスト削減にとどまらず、現場から自発的に改善提案が生まれるようになった点です。
現場の行動が変わり、数字が変わり、経営にインパクトを与えたのです。
年間3,700万円超の時間外コスト削減
――2病院で起きた変化
別の関東の法人では、200床規模の病院を2施設運営していました。
ここでも慢性的な時間外労働が常態化し、人件費の増加が経営を圧迫していました。
管理職層には問題意識があったものの、改善は属人的で、仕組みとして定着せず、時間が経つと元に戻る状態が続いていました。
看護部から改善の仕組みを整え、役割と進め方を明確にした結果、時間外労働コストは理論値ベースで年間約3,712万円削減されました。
加えて、日勤帯における看護師の歩行距離は、1日約20,000歩(約14km)から7,000歩(約5km)へと約65%削減。
これは、看護師一人あたり約3時間分の「患者価値を生まない時間」が削減されたことを意味します。
その結果、現場の負担は軽減され、改善活動は一過性のものではなく、現場主導で継続するプロジェクトへと変わっていきました。
共通していたのは「看護部が起点」であること
これら二つの事例に共通しているのは、改革が看護部から始まり、病院全体へと広がった点です。
特別な制度変更や大規模投資を行ったわけではありません。
違いを生んだのは、「現場で実行され続ける仕組み」をつくったことでした。
病院最大の組織である看護部は、患者体験と業務効率の両方に直接影響を与えます。
そのため、病院全体の非効率や歪みは、最初に看護部に集約されます。
看護部は問題の原因ではなく、問題が最も数値として表れる場所なのです。
だからこそ、看護部が変わると、病院は動き出します。
現場の行動が変わり、改善が回り、結果として離職率・時間外・人件費といった経営指標が動く。
この連鎖をつくれるかどうかが、これからの病院経営の分かれ目になります。
次回は、なぜ今「看護部改革」が病院の差別優位性になるのか、その理由をさらに掘り下げていきます。
この記事を書いた人

著者名
兄井 利昌
役職
業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー


業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

