第1回|なぜ今、病院は変わらなければならないのか
第2回|看護部改革が「実行力の差」を生む理由
第3回|忙しいのに成果が出ない病院の構造とLEANの役割
第4回|NKリーンマネジメントとは何か
第5回|NKリーンマネジメントで成果を出し続ける病院の条件
戦略ではなく、現場の回り方が病院の明暗を分ける
前回は、看護部を起点とした改革が、離職率や時間外労働、人件費といった経営数字を実際に動かした事例を紹介しました。
では、なぜ同じ制度環境の中で、これほどの差が生まれるのでしょうか。
医療業界では、診療報酬制度という共通ルールのもとで経営が行われています。
他産業のように価格戦略や商品差別化で一気に競争優位を築くことは難しく、どの病院も似たような経営計画や方針を掲げています。
それにもかかわらず、
・黒字を維持し続ける病院
・赤字が常態化し、改善の糸口を見いだせない病院
がはっきりと分かれているのはなぜでしょうか。
その分かれ目となっているのが、「実行力」です。
計画はあるが、実行されない病院の共通点
多くの病院には、中期計画や業務改善計画があります。
しかし現場を見てみると、「計画は存在しているが、日常業務の中で意識されていない」というケースが少なくありません。
忙しさに追われる中で、
・改善は後回しになる
・気づいた問題はその場しのぎで処理される
・PDCAが回る前に担当者が疲弊する
こうして改善活動は形だけ残り、実行が伴わなくなっていきます。
このとき、最も影響を受けるのが看護部です。
病院最大の組織であり、24時間365日、患者対応を担う看護部は、病院の「計画」と「現実」のギャップを最前線で受け止める存在だからです。
なぜ「実行の差」は看護部に表れるのか
看護部は、病院内で最も人数が多く、業務量も多い組織です。
そのため、病院全体の非効率やムダは、最終的に看護部の業務として現れます。
・他部門の遅れを看護師がカバーする
・不完全な仕組みを人の努力で補う
・役割が曖昧な部分が看護業務に吸収される
こうして、看護部の忙しさは増大していきます。
しかし、この状態ではいくら改善計画を立てても、実行は続きません。
なぜなら、改善を「追加業務」として扱っている限り、日常業務に押し戻されてしまうからです。
一方、前回紹介した病院では、改善を特別な取り組みではなく、日常業務の回し方そのものに組み込んでいました。
ここに、実行力の差が生まれる理由があります。
看護部改革が「実行の徹底度」を高める理由
看護部改革の本質は、「現場が自分たちで回せる仕組み」をつくることにあります。
具体的には、
・誰が改善を主導するのか
・どの単位でPDCAを回すのか
・どこまでを現場で決め、どこからを上位が支援するのか
といった役割と進め方を明確にすることです。
前回の事例では、看護部内で改善の役割を明確にし、テーマを絞って改善を回していました。
その結果、改善が属人化せず、途中で止まらない仕組みができていました。
その成果は、数字としてはっきり表れています。
時間外労働の削減、離職率の改善、人件費の圧縮。これらは偶然ではなく、実行が積み重なった結果です。
実行力は「精神論」ではなく「構造」で決まる
「現場の意識が低いから実行できない」
そう考えてしまうと、改革は行き詰まります。
実行力の差は、個人の能力や意欲の問題ではありません。
実行できる構造があるかどうか、それだけです。
・改善に使える時間が確保されているか
・現場が判断できる範囲が明確か
・上位職が現場を支える役割を果たしているか
これらが整っていなければ、どれほど正しい方針でも実行されません。
看護部改革は、この「実行できない構造」を「実行できる構造」へと変える取り組みです。
だからこそ、看護部改革が進むと、病院全体の実行力が底上げされていきます。
実行力の差が、病院の将来を分ける
制度環境が大きく変わらない医療業界において、差別優位性を生むのは戦略ではなく、実行の積み重ねです。
看護部がPDCAを回し続けられる病院は、同じ条件下でも結果を出し続けます。
次回は、こうした実行力を支えている考え方として、Lean(リーン)というマネジメントの思想に焦点を当てます。
なぜLeanが、忙しい医療現場でこそ力を発揮するのか。その理由を掘り下げていきます。
この記事を書いた人

著者名
兄井 利昌
役職
業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー


業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

