第1回|なぜ今、病院は変わらなければならないのか
第2回|看護部改革が「実行力の差」を生む理由
第3回|忙しいのに成果が出ない病院の構造とLEANの役割
第4回|NKリーンマネジメントとは何か
第5回|NKリーンマネジメントで成果を出し続ける病院の条件
忙しいのに成果が出ない病院の構造とLEANの役割
――努力が価値に変わらない理由
「これだけ忙しいのに、なぜ成果につながらないのか」
多くの病院で、経営層も現場も同じ疑問を抱えています。
現場では残業が続き、職員は疲弊している。
一方で、離職は止まらず、経営指標も改善しない。
努力量と成果が釣り合っていない――
それが、いま多くの病院が直面している現実です。
重要なのは、
この状況が現場の努力不足によって起きているわけではないという点です。
むしろ多くの病院では、現場は限界まで頑張っています。
それでも成果が出ないのは、「忙しさ」を生み出している構造そのものに原因があります。
忙しさ=生産性ではない
医療現場では、「忙しい=生産性が高い」と捉えられがちです。
しかし実際には、忙しさの中身を分解してみると、患者価値を生んでいない時間が多く含まれています。
・不要な移動
・手戻りや待ち
・情報の行き違い
・属人化による非効率
これらはすべて、現場の努力とは無関係に発生します。
つまり、現場がどれほど頑張っても、構造が変わらなければ忙しさは減らず、
成果にも結びつきません。
前回までに紹介した事例でも、
改善前は看護師が1日あたり約2万歩(約14km)歩いていました。
これは時間に換算すると約3時間分に相当します。
しかし、その大半は患者価値を直接生んでいない移動時間でした。
現場は全力で動いていたにもかかわらず、努力が価値に変換されていなかったのです。
看護部に集中する「構造的なムダ」
病院の中で、この構造的なムダが最も集まりやすいのが看護部です。
看護部は、他部門の業務の遅れや不完全さを吸収する役割を担っています。
・医師や検査の都合による待ちを調整する
・事務手続きの不備を現場で補う
・部門間の隙間を看護業務で埋める
こうして、病院全体の非効率は看護部の「忙しさ」として表面化します。
しかし、この忙しさを「看護部の努力不足」や「人員不足」の問題として扱ってしまうと、
本質的な改善にはつながりません。
LEANが果たす役割とは何か
ここで重要になるのが、LEAN(リーン)の考え方です。
LEANは、単なる業務改善手法ではありません。忙しさの正体を分解し、
価値を生む時間と、価値を生まない時間を区別するためのマネジメントの思想です。
LEANの出発点は、「どこが忙しいか」ではなく、
「どこで患者価値が生まれているか」を見極めることにあります。
これにより、
・減らすべき忙しさ
・残すべき、あるいは増やすべき仕事
が明確になります。
先の事例で歩行距離が約65%削減されたのは、「頑張らなくなった」からではありません。
価値を生まない時間を構造的に減らし、その分を患者対応や判断に振り向けた結果です。
努力を「成果」に変えるために必要な視点
LEANが医療現場で力を発揮する理由は、
現場の努力を否定せず、その努力を正しい方向に集中させる点にあります。
忙しさを前提にするのではなく、
・この仕事は患者価値につながっているか
・この動きは本当に必要か
・仕組みで減らせる部分はどこか
を問い直すことで、努力は初めて成果に変わります。
そして、この問いを最も現実的に投げかけられるのが、患者と最も近い場所にいる看護部です。
だからこそ、LEANは看護部改革と極めて相性が良いのです。
忙しさを減らすことは、価値を高めること
「忙しさを減らすと、医療の質が下がるのではないか」
こうした不安の声もあります。
しかし実際には、価値を生まない忙しさを減らすことは、医療の質を下げるどころか、患者価値を高める結果につながります。
LEANは、「頑張り方を変える」ための考え方です。
努力を削るのではなく、努力の向きを揃える。
そのための共通言語を、現場に与えます。
次回は、このLEANの考え方を医療向けに体系化した
『NKリーンマネジメント』に焦点を当て、
なぜこれが病院経営の基盤になり得るのかを解説します。
この記事を書いた人

著者名
兄井 利昌
役職
業務プロセス改善コンサルティング部
部長
総務省アドバイザー


業務改善・働き方改革・医師人事制度構築などに精通。徹底した現場主義と、個々に寄り添うフレキシブルな対応力で、多くのファン顧客を抱える。

