株式会社日本経営

外来が回らないのは、頑張りが足りないからではない |「人の数」から「流れの改善」へ

著者名

外池 薫子

2026年2月17日

外来が回らないのは「人が足りない」から、だけではない

「人が足りないんです。」

外来のご相談を受けると、ほとんどの場合、この言葉から話が始まります。

待合は混み、診察室前には列ができ、看護師は走り、

クラークは電話と患者対応に追われる。

医師も診察の合間に説明や記録、調整が重なり、患者さんの不満は増え、

職員は疲弊していきます。

管理者や現場リーダーが「どこから手をつければいいのか分からない」と感じるのも、

無理はありません。

だから会議では、自然とこんな議論になります。

「あと何人増やせば回るのか」「配置をどう変えるか」

ただ、本当に問題の中心は「人の数」なのでしょうか。

人は、もう増えないという前提

そもそも、これから人が増える見込みはほとんどありません。

厚生労働省などの推計によると、

2020年時点で約7,500万人いた生産年齢人口は、

2040年頃にはおよそ6,000万人前後まで減少すると見込まれています。

一方で、65歳以上の高齢者は同じ2040年頃に約3,900万人に達するとされています。

支える側は減り、医療を必要とする側は増えることが確実なのです。

「採れない」「増やせない」は、もはや将来の懸念ではなく、

すでに現場で起きている前提です。

今後10〜15年で、その影響はさらに大きくなっていきます。

外来の課題は、ますます人数だけで解ける問題ではなくなっています。

外来が回りにくくなった2つの背景

では、何が外来を回りにくくしているのか。

私たちは、その背景にあるのは次の二つだと考えています。

①制度と現場の前提のズレ

②判断が特定の工程に集中する構造

ここを捉え直すと、待ち時間や残業、稼働といった目に見える数字は、

数字を直接いじらなくても変わり始めます。

制度は「外来を仕組みとして回す」ことを求めている

診療報酬改定の流れを俯瞰すると、方向性は一貫しています。

外来の機能分化、通院回数や滞在時間の適正化、効率化やDX化。

いずれも「外来を減らせ」という話ではなく、

限られた医療資源をどう使うかを整理し、

外来を仕組みとして回る状態にしてほしい、というメッセージです。

一方で現場は、「今日を安全に、公平に、無事に回す」前提で運営を積み上げてきました。

これは現場として当然で、正しい判断です。

ただ、この正しさの前提が揃わないまま改善を重ねると、

噛み合わせの悪さが歪みとして表面化します。

制度は「構造を変えよ」と言い、現場は「今日を回せ」と言われ続けてきた。

その積み重ねが、外来を複雑にしてきました。

現場の合理性が、詰まりを固定化する

外来には、暗黙の前提があります。

  • 診療は午前に集中

  • 最終判断は医師の工程に集まる

  • 来院順を基本とした運用

  • 情報は事前に集めて整えるが、最終的な判断は診察室で行う

これらは、非効率だから残っているのではありません。

医療安全や診療の質、公平性を守るために、

一つひとつは現場にとって合理的な選択として積み重ねられてきた運営です。

これは失敗ではなく、「安全に回すことに成功してきた結果」とも言えます。

だからこそ簡単には崩れません。

ただし、この合理性は外来全体で見ると

「判断が一か所に集まり続ける」構造をつくります。

診察室にしかできない判断が残り、

説明や調整、記録といった行為も同じタイミングに重なる。

結果として、負荷が特定の工程・特定の時間帯に集中しやすくなります。

その前提のままDXやAI問診といった新しい手段を入れても、

判断が集まる場所や順番が変わらない限り、詰まりそのものは解消されません。

古いOSのまま最新のアプリを入れても、

動きが軽くならない状態に近いと言えるでしょう。

患者は合理的に行動している

「予約制なのに、患者さんが早く来る」これも現場でよく聞く声です。

しかし、患者はルールを破りたいわけではありません。

受診は生活の一部であり、1日の予定の一コマです。

終わる時間が読めない不確実性を避けるため、早めに来る。

今日中に検査も薬の受け取りも済ませたい。

これは行動経済学的にいうところの、

限定合理性で説明できる合理的な行動です。

患者行動は、外来の運営条件に適応した結果だと捉える方が建設的です。

忙しさの正体は「偏り」

外来全体が一日中ずっと忙しい、ということは多くありません。

実際には、判断や説明、イレギュラー対応が特定の工程・

特定の時間帯に集中し、瞬間的に負荷が跳ね上がります。

この偏りが詰まりを生み、全体を止めます。

構造を見直すと、変化が生まれる

ここまでを踏まえると、問いは自然にこう変わります。

「流れと構造を見直すと、現場では何が変わるのか。」

たとえば、診察室に集中している判断・説明・調整・記録を整理し、

事前に決め切れる判断を前工程で整える。

診察後に回せる業務を後工程へ意図的に渡す。

これだけで、診察室で発生していた

一人あたり対応時間のばらつきが小さくなることが期待できます。

ばらつきが小さくなると、診察の遅れが連鎖しにくくなり、

待ち時間のピークが下がります。

すると、これまで経験や勘に頼っていた応援や配置が、

現場と管理者の間で共有できる判断材料として、

「どの時間帯に、どの役割が必要か」という形で整理できるようになります。

こういった変化が起こるのは、誰かの頑張りが増えたからではありません。

判断が発生する場所と順番が整理され、負荷が集中し続ける構造が崩れるからです。

外来改革は「何をするか」より「どう見るか」で決まる

外来改革は、「何をするか」ではなく、どの順番で現場を見て、

判断するかを揃えることから始まります。

流れと構造が整理されると、

これまで感覚や経験に頼っていた判断が、

現場と経営のあいだで共有できる材料に変わっていきます。

その結果として、外来は「頑張り続ける場所」ではなく、

状況に応じて判断し、調整できる場へと変わっていきます。

そのために、まず自院の外来で

「どこで判断が重なり、どこで流れが止まっているのか」を、

一度、構造として見直してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

著者名

外池 薫子

役職

業務プロセス改善コンサルティング部
課長代理
米国リーン認定コンサルタント

現場の答えを一緒に見つける「伴走型」コンサルタント。人事制度構築・ 人材教育の知見も豊富。

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