株式会社日本経営

ICTを導入しても病棟業務が楽にならないのはなぜか ― 成果につなげるために必要な「業務の引き算」

著者名

奥野 香澄

2026年10月13日

「ICTを導入した。でも残業は減らない。」

その原因は、システムではなく“業務の設計”かもしれません。

病院では、スマートフォン、見守りセンサー、音声入力、生成AIなど、さまざまなICT導入が進んでいます。

一方で、

「システムを入れたのに残業が減らない」
「入力する場所が増え、かえって面倒になった」
「一部の職員しか使っていない」

といった声も少なくありません。

多額の投資をしてICTを導入したにもかかわらず、現場の負担も経営数字も変わらない。

問題は、本当にシステムなのでしょうか。

私たちが病院の業務改善をご支援する中で感じるのは、ICT導入の成否を分けるのは「何を入れるか」以上に、「導入を機に業務そのものをどう変えるか」だということです。


ICT導入が「業務の足し算」になっていないか

病棟には、紙、電子カルテ、電話、口頭での申し送り、Excel、PHSなど、長年積み重ねられてきた業務があります。

そこへ新しいICTを追加しても、従来の業務をそのまま残せば、

「今までの仕事+新しい仕事」

になってしまいます。

たとえば、電子化したのに紙も残す。
スマートフォンを導入しても電話やPHSも従来通り使う。

便利なツールが増えているはずなのに、仕事は減らず、むしろ複雑になっていく。

セミナーでも、従来業務と新しいツールによるプロセスが二重化することで成果が出にくくなること、だからこそ「足し算ではなく引き算」が重要だと解説しました。

ICT導入時に問うべきなのは、

「このシステムで何ができるか」ではなく、
「このシステムを入れるなら、何をやめられるか」

です。


「導入した」ではなく、「何が変わったか」

ICT導入そのものは成果ではありません。

経営層が見るべきなのは、その先です。

  • 看護師が患者のそばにいられる時間は増えたか

  • 記録や確認の時間は減ったか

  • 二重入力はなくなったか

  • 残業時間は減ったか

  • 人材定着につながったか

  • 病床受け入れ余力は増えたか

  • 収益・コストに変化が出たか

セミナーでは、ICTの価値を「患者価値」「職員の働きやすさ」「経営成果」につなげて考える必要があるとお伝えしています。

つまり、

ICT導入 → 業務変革 → 現場定着 → 経営成果

まで設計する必要があります。


15分の削減を「経営成果」に変える

病棟業務改善は、「看護部の効率化」と捉えられがちです。

しかし、時間を数字に置き換えると見え方が変わります。

セミナーでは一例として、看護師100人の記録時間を1日15分削減した場合、年間約6,000時間を創出できるという試算を紹介しました。

その時間を残業削減につなげれば、条件によっては年間約1,380万円規模のインパクトになります。

また、創出した時間をベッドコントロールなどに充て、平均稼働病床を1床高めることができれば、セミナー内の試算では年間2,000万円を超える収益インパクトも想定できます。

重要なのは、

「15分短縮できた」で終わらせないこと。

その15分を、

コスト削減に使うのか。
患者ケアに使うのか。
病床稼働向上に使うのか。
働き方改善に使うのか。

そこまで決めて初めて、業務改善が経営改善につながります。


ICT導入前に、まず業務を棚卸しする

では、どう進めればよいのでしょうか。

最初に必要なのは、ICTありきで考えないことです。

現場で、

  • 何に時間がかかっているのか

  • どこで同じ情報を何度も入力しているのか

  • 誰が誰に確認しているのか

  • どこで待ち時間が発生しているのか

  • その業務は本当に必要なのか

を可視化します。

セミナーでも、業務一覧を作り、実際の業務量を把握し、職種や立場を越えて共通認識をつくる重要性を紹介しました。

経営層、事務部門、看護部、現場スタッフでは、見えている課題が異なります。

そこで有効なのが「数字」という共通言語です。

「忙しいと思う」ではなく、

「この業務に1日○時間かかっている」

と示すことで、改善の議論は具体化します。


最初から全病院に広げない

新しいICTを全病棟・全職員に配布したものの、実際には使われず、充電器に置かれたまま。

そんなことも起こります。

だからこそ、

小さく試す
↓
成果を測る
↓
改善する
↓
横展開する

という進め方が有効です。

セミナーでも、小さなグループで成功体験をつくり、その効果を実感した職員から周囲へ広げていく方法を紹介しています。

システムを導入することよりも、

「このやり方なら楽になった」

という現場の実感をつくることが、定着につながります。


「人を減らすDX」ではなく、「人を定着させるDX」へ

ICTやAIの活用を進めると、

「効率化されたら、人を減らされるのではないか」

という不安が現場から出ることがあります。

だからこそ目的を明確にする必要があります。

人を減らすためではなく、
今いる人が働き続けられる環境をつくるための効率化。

業務を減らして生まれた時間を、患者ケア、残業削減、柔軟な勤務、受け入れ体制の強化に使う。

セミナーでも、「人を減らす」のではなく「人を定着させる」という考え方が紹介されています。


経営層が問うべきは「何を買うか」ではない

DX、そしてAI活用が進めば、病院にはこれからも新しい技術が入ってきます。

そのたびに「どのシステムを選ぶか」だけを議論していては、同じ問題が繰り返されます。

必要なのは、

新しい技術を成果に変えられる組織をつくること。

ICTを導入するたびに業務が増える病院と、
ICTをきっかけに業務そのものを変えられる病院。

その差は今後、働きやすさだけでなく、人材確保、病床稼働、そして病院経営そのものの差になっていくと考えます。

セミナーでも、ICTやAIを個別に考えるのではなく、新しい技術を成果に変えられる組織づくりの重要性についてお話ししています。

動画でも詳しく解説しています

本テーマについて、セミナー動画

「ICTを導入しても、なぜ病棟業務は楽にならないのか」

では、病院現場で起きている事例を交えながら詳しく解説しています。

▶ セミナー動画はこちら

ICT導入後の「成果が見えない」と感じたら

株式会社日本経営では、単なるICT導入支援ではなく、

現状把握 → 業務量調査 → 課題特定 → 業務再設計 → 定着 → 効果検証

まで、現場とともに改善を進めています。

「ICTを導入したが、期待した効果が出ていない」
「どこから改善すればよいのか分からない」
「経営層と現場で課題認識が合わない」

といった課題がございましたら、お気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

著者名

奥野 香澄

役職

業務プロセスコンサルティング部
チームリーダー
臨床検査技師
Lean Certification GOLD LEVEL
ITパスポート
RPA認定技術者(WinActor)エキスパート
WinActor講師認定初級

京都大学医学部人間健康科学科を卒業後、 民間病院グループの基幹病院で臨床検査技師として勤務。その後、システム会社にて上場企業・金融機関のRPA導入などを経て日本経営に入社。病院・介護施設向けRPA導入支援・開発支援、医療情報システム導入支援、業務改善支援に従事している。

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